文・写真:しみずことみ
11月の富士見台公園は、ケヤキの黄葉がちょうど見ごろでした。
広い芝生の周りを、やわらかな紅や黄色の葉をつけた木々が、輪になって囲んでいます。
その木かげに、リュックを背負った人たちが集まっていました。
ふだんは、子どもたちの遊ぶ姿を遠くに眺めるだけの場所でしたが、この日は「秋を探しに行こう」と題した自然観察会。
高齢者あんしん相談センター由木による主催で、およそ30人が集まりました。

「おばけケヤキ」と樹皮の裏側の世界

観察会の出発は、集合場所の直ぐそばにある大きなケヤキでした。
枝ぶりが美しく、富士見台公園のシンボルとも言えるこの場所で、小林さんの解説が始まります。
本来のケヤキは、ほうきを逆さにしたみたいな形になるんです。
でも街路樹だと枝を切られすぎて、葉っぱが3倍くらいまで大きくなっちゃう。
私は“おばけケヤキ”って呼んでます。
笑いが起こりつつも、たしかに、と深く頷きたくなります。
剪定の影響で、枝が少なくなった分を取り戻そうと、葉を大きく広げているのだそうです。
そこから話題は、樹皮の下へと潜っていきます。
はがれかけている樹皮を、そっとめくってみてください。
無理やりはがさないで、“ふたを開ける”くらいの気持ちで。
樹皮の裏は、冬を越す生き物たちの集合住宅。
春を待つ虫の卵や幼虫、樹液に集まるような大きめの甲虫、そして、それらをねらうキハダカニグモやキハダエビグモなどのクモたち。
冬になると、ここに虫が集まるのをよく知っているクモなんです。

しかし、そのクモたちにも、さらに上の捕食者がいます。
小林さんは、幹にぴたりと張り付く鳥たちの姿を思い出すように話しました。
普段は枝に留まっているはずの鳥が、冬場は幹に張り付いて、何かを探してたりするんですよ。
シジュウカラとか、冬でも結構昆虫を食べたりする鳥っているんですけど、ここの隙間に虫がいるのをよく知ってますね。
さっきまで、この薄い空間ではクモたちが“頂点”のように見えていましたが、鳥の世界から見れば、そこもまたひとつの狩り場。
「井の中の蛙ですね」と小林さんは語ります。
クモも虫も鳥も、それぞれの時間のなかで生きていて、そのたびに力関係は静かに入れ替わっていく。
めくった樹皮は、元の木の近くにそっと戻します。
「せっかく起こしてしまったので、ちゃんと感謝して」と小林さん。
一つのケヤキの幹が、どれだけの命を支えているのか、樹皮越しに、その重なり合う気配が静かに伝わってきました。
地面の下にも別の時間が流れている

次は視線を地面に落として、「モグラ塚」を見つけます。
土がこんもり盛り上がった小さな山が、あちこちに散らばっています。
モグラは、私たちの原点みたいな生き方をしています。
まずはミミズなどをたくさん食べて、トンネルを掘って、土捨ててっていうことを、3時間ぐらいがんばるんですが、その後、疲れて3時間ぐらい爆睡するんです。
そうするとお腹が空いて目が覚めて、また活動する。
この6時間くらいのサイクルでずっと生きているんです。
暗い土の中で暮らすモグラには、朝も夜もありません。
以前行なった自然観察会で同じ話をしたところ、「赤ちゃんと一緒だね」という声があったそうです。
ついつい、自分たちの時間軸で考えがちですが、それぞれの生きものの、それぞれの時間が流れていることに気づかされます。
もう一回り小さい「ヒミズ」と呼ばれるモグラの仲間も暮らしているそうです。
落ち葉と土のあいだの“半地下”で動き回るため、葉っぱがガサガサと動いているのを見かけたら、それはヒミズのしわざかもしれません。
地面の下にも別のリズムで時間が流れている。
そう思うと、足元の土が、少しだけ厚みを帯びて感じられました。

クスノキの「ダニ部屋」と、鳥が運ぶ木の赤ちゃん

クスノキの葉の裏側をそっと見ると、葉脈が鳥の足のように広がり、その“水かき”の部分に、小さなふくらみがいくつも並んでいます。

これは“ダニ部屋”。中にはダニが暮らしているんです。
どのクスノキにも、ほとんど必ず付いているんですよ。
クスノキとダニとのあいだには、静かなやりとりがあるのだそうです。
この小さな“部屋”には、葉を食べる他のダニを捕まえてくれる仲間が住み、クスノキはそのおかげで葉を守られている。
お互いに支え合いながら、長い時間を共にしてきた関係のようでした。

クスノキの周りを見渡すと、別の木の赤ちゃんが顔を出しています。
たとえば、エノキ。
エノキの実は鳥の大好物。
鳥がここでひと休みして、フンといっしょに種を落としていく。
だから、大きな木の根元は“苗木のゆりかご”なんです。


河原の名残を歩く──富士見台公園の地形

公園の斜面をぐるりと回るように園路が続いています。
その一部は、開発前の崖線の名残なのだそうです。
ここは、かつての大栗川の流れの跡なんです。
だから、河原に生える木が多いでしょう?
そう言われてみると、オニグルミやミズキ、ヤナギ類など、水辺を好む木がところどころに混じっています。
富士見台公園の雑木林には、近くの山から持ってきた木を植えた場所もあり、「街の公園でありながら、里山の断片がぎゅっと詰まっている」と小林さんは話します。

香りで憶える植物たち

この日の観察会では、“香り”が何度もキーワードになりました。
クスノキの葉を指で揉んでみると、懐かしいような、すっきりとした香りが立ち上がります。
少し歩いた先では、鮮やかなピンクと青緑の実をつけたクサギに出会いました。

ショッキングピンクのがくと、ターコイズブルーの実。クサギの実は、まるで仮面ライダーの怪人のような色合い。
葉をそっともんでみると、ピーナッツのような、なんとも言い切れない香りがふわりと広がります。
名前こそ「臭木」ですが、ふしぎと懐かしさのある香りでした。
そして野良ラッキョウの花にも出会いました。
細い茎を指でつまんで、そっと鼻に寄せてみると、そこにあったのは、まさに台所で瓶のふたを開けたときの、あの「らっきょう」の匂い。

自然観察をしていたはずなのに、突然、家の台所の光景が浮かびあがってきて、少し混乱します。
野に生えているだけで、こんなにも生活に近い香りを持っているのだと、思わず笑ってしまいました。
嗅覚からの情報は、景色よりも、言葉よりも、深く記憶に残るものなのかもしれません。
きっと参加者のなかにも、今日の公園を「らっきょうの匂い」で憶えた方がいたのではないかと思います。
小さなシダと赤く染まる葉っぱ

林の薄暗い斜面では、シダの仲間「アカハナワラビ」も紹介されました。
冬になると、葉の表も裏も、しずかに赤く染まっていくシダです。
冬には胞子葉は倒れてしまうので、赤くなるのは葉の部分ですね。
光の少ない場所で、ふわりと色づくその赤は、きっと落葉の合間に灯る、小さな明かりのようだろうと、想像が膨らみます。

足もとには、トウカエデの落ち葉が赤や黄色に混ざり合っていました。
しゃがんでみると、大人の目線では見えていなかった世界が、すぐ足もとから立ち上がってきます。

草刈りが残してくれる野草たちの居場所

富士見台公園の斜面には、チカラシバやスズメウリなど、素朴だけれど味わい深い野草も残っていました。
いい植物を守るには、じつは“草刈り”が欠かせないんです。
草刈りが入らなければ、ススキなど背の高い草が一気に生い茂り、小さな植物たちはすぐに光を奪われてしまいます。

昔の田んぼの土手では、害虫を防ぐために何度も草刈りが行われ、その結果、刈られても生き残れるような小型の草たちが多様な草地を形づくっていました。
田んぼが減った今、その役割を、公園の土手が引き継いでいるのかもしれません。

「近くの公園」をもう一度見つめ直す
今回の観察会は、「近くの公園の魅力を再発見!」というサブタイトルが付いていました。
富士見台公園は、由木地域の人たちにとって、決して珍しい場所ではありません。
散歩コースであり、子どもの遊び場であり、季節ごとの行事の会場でもあります。

けれど、小林さんの案内で歩き直してみると、
・ケヤキの樹皮の裏に眠る虫
・モグラの3時間サイクル
・クスノキのダニ部屋
・鳥が運んだエノキの苗木……
その一つひとつが、「ここに生きている」という実感を伴って、目の前に立ち上がってきました。

体験と記録のあいだで
私は今回も、カメラを持って参加しました。
歩きながら、気になった光や、誰かの横顔や、小さな葉っぱを撮りとめていきます。
小林さんが持ってきた、どんぐり型の標本ケース。
そこに一つずつ枝や葉を入れていく行為が、「体験をその場に留めておく」ようにも見えました。

一方で、私が撮る写真や、今こうして書いている文章は、その場から少し時間をおいて振り返るための「記録」です。
自然観察会の2時間は、あっという間に過ぎていきましたが、ケヤキの下で聞いた話や、土の匂い、クサギのピーナッツのような香りは、画面の中やノートの端っこに、静かに残り続けます。
富士見台公園は、これからも散歩の途中に通りかかる場所です。
今回憶えた香りや形を手がかりに、また季節の変わり目に、そっと木々を見上げてみようと思います。
そのたびに、この日のことを少し思い出せたら。
そんなふうに、体験と記録のあいだを行き来しながら、近くの公園とのお付き合いを、これからも続けていきたいと感じました。

イベントの概要
- 日時:2025年11月12日(水)10:00〜12:00
- 場所:富士見台公園(東京都八王子市下柚木905-3)
- 主催:高齢者あんしん相談センター由木
- 案内人:小林健人さん(NPOフュージョン長池/長池公園園長)

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