由木の小さな歴史の痕跡を探しておさんぽ

谷戸と祈りをめぐる記録

打越谷戸と打越弁財天──水の神と暮らしが織りなす谷戸の記憶 | 東京都八王子市打越

2025年5月2日追記・修正:文・写真 しみずことみ


谷戸の奥にひっそりと佇む打越弁財天

2024年5月31日。私は由木のこともほとんど分からないまま、記録者としての習慣から、この地にある「打越弁財天」を訪れました。静かな谷戸の奥。緑に包まれるようにして、真新しさを感じる社殿が静かに佇んでいました。人の気配はほとんどなく、ただ鳥の声と風に揺れる竹林の音だけが響いている。当時の私は、その場にただ身を置き、シャッターを切りながらも、この場所の深い意味までは知る由もありませんでした。


弁財天と白蛇──打越弁財天の信仰のかたち

後日、ぶら散歩の会のグループLINEで、この弁財天について八王子市郷土資料館元館長で会のメンバーでもある佐藤広さんに解説をいただく機会がありました。

(蛇は)ネズミを食べる、蚕のみかた。八十八夜は、養蚕神の打越弁天では、白蛇の絵馬を出しました。

その言葉に、私は打越弁財天がただの水の神ではないことを知りました。白蛇は弁天様のお使い。もともと水神だった弁財天は、時を経て技芸の神、そして養蚕を守る神としても信仰されるようになったのです。

蚕を食べるネズミを退ける存在として、白蛇はまさに養蚕農家にとって大切な神の使いでした。この地域でも養蚕が盛んだった頃、打越弁財天は人々の暮らしと密接に結びついていたのです。


養蚕と結びついた地域の暮らし

特に八十八夜には、この神社で白蛇の絵馬を奉納し、豊蚕と無病息災を祈願したと言います。
白蛇が守る弁天様に、無事に蚕が育つことを願う。
それは、農と祈りが一体だった時代の素朴で切実な願いでした。

祈りの形は今もこの場所に残っていて、絵馬や石碑、灯籠といったものだけでなく、谷戸の奥という地形そのものが、水と暮らしをつないできた歴史を物語っています。


境内に残る祈りのかたち

境内を歩くと、六体地蔵や苔むした石塔、灯籠などがひっそりと佇んでいます。
かつてこの地に住んでいた人々が、日々の暮らしの中で手を合わせ、願いを託してきた跡が、今も静かに感じることができます。

これらの祈りのかたちは、現代の私たちが見過ごしがちな「地域の歴史」を今に伝えてくれる大切な存在です。
誰かの暮らしと心が積み重なった場所。それが打越弁財天の境内でした。


打越弁財天を訪ねて──記録するという営み

私はこの場所を、最初はただ「記録するため」に訪れました。けれど、少しずつ知ることで、この地に息づいてきた歴史や人々の思いが見えてきました。白蛇の絵馬も、谷戸の水も、境内に残る石碑も。それらはすべて、かつての暮らしと今をつなぐ「地域の記憶」。

これからも、こうした場所に足を運び、記録し、伝えていきたい。打越弁財天は、そんな私の気持ちをそっと後押ししてくれるような場所でした。

2025年5月2日追記・修正:文・写真 しみずことみ


所在地


RECOMMEND
RANKING
DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

RELATED

PAGE TOP