写真・文:しみずことみ
静かな森の中、灯された提灯のあかり。
地域に根ざした人々が集う下柚木御嶽神社の夜宮は、ひと夏の終わりに訪れる、あたたかな小さな祭りでした。
はじめに
2024年8月24日、八王子市由木地域の下柚木にある下柚木御嶽神社で、地域に根ざした「夜宮」が行われました。
街道から奥へ進んだ小さな山中に佇むこの神社は、普段は人の気配も少なく、どこか閉ざされたような静謐さに包まれています。
そんな場所で、提灯の灯りとともに始まった静かな夏の祭り。
案内してくれた知人のおかげで足を踏み入れることができたこの空間は、親しい者だけが集うあたたかな夜の宴となっていました。
夜の神社に静かに集う人々
夏の終わりを感じさせる湿った夜気の中、御嶽神社の境内には、氏子や町会関係者、その家族を中心とした人々が集まっていました。赤白の提灯が夜空に映え、並ぶ屋台では小さな子どもたちが手を引かれて歩き、地域の賑わいを感じさせます。
この日は盆踊りも予定されていましたが、開始前に帰路についたため、その様子は見ることができませんでした。けれど、準備された櫓とステージで始まった歌謡ショーが、地域ならではの和やかな時間を演出していました。

夜の境内に並ぶ屋台。親しい人たちの会話が静かに交わされる(撮影:しみず)

赤白の櫓と提灯が祭りの中心を彩る(撮影:しみず)

ステージでは歌謡ショーが始まり、観客が静かに耳を傾ける(撮影:しみず)
異界と現実の境界のように輝く鳥居と提灯
この夜、最も印象に残ったのは、会場へ向かう道中の体験でした。
御嶽神社は坂道の上にあり、自転車では上がりきれず途中から徒歩で向かうことに。
薄暗い道を進むと、遠くから森越しに演歌が聞こえてきました。幻想的な音の中、ふと現れた赤い鳥居と提灯の灯り。まるで異界の入口に迷い込んだかのような、不思議で神秘的な感覚が訪れました。

異界と現実の境界のように輝く鳥居と提灯 (撮影:しみず)
町会長さんとの出会い
境内では町会長さんと話す機会にも恵まれました。町会長さんは新住民で、「わからないなりに先輩方に教えてもらいながらやっています」と、穏やかに語ってくださいました。地域の歴史や行事を新たな担い手が学びながら支えている、そんな姿が印象的でした。

暗闇に浮かび上がる社務所の灯り(撮影:しみず)
神社と地域をつなぐ役割
下柚木御嶽神社は、江戸時代にはすでにこの地域の鎮守として祀られていたと考えられています。由木・鑓水・下柚木など、古くからの集落が点在する中で、生活とともに歩んできた場所です。
年中行事のひとつである夜宮も、地域の絆を再確認するための大切な機会。盆踊りや屋台を通じて、世代を越えて人と人とがつながる場となっています。

静かに境内を見守る狛犬。御嶽神社の歴史を今に伝える存在(撮影:しみず)

夜空に揺れる奉納旗 (撮影:しみず)
おわりに──受け継がれるあたたかさの中で
訪れる前は、閉ざされた空間に入るような緊張感もありました。
けれど鳥居をくぐると、町会長さんをはじめ地域の方々の温かな交流が広がっており、子どもたちも境内を自由に走り回っていました。
新旧の住民が協力し、静かに受け継がれていく夜宮。その姿は、この地域ならではの豊かさと優しさを象徴しているようでした。
来年は、盆踊りの時間までゆっくりと滞在し、より深くこの祭りの魅力を味わいたい──
そう思いながら、神社を後にしました。
写真・文:しみずことみ

静かに揺れる提灯の灯り。地域の絆を象徴するかのようだった (撮影:しみず)
このシリーズでは、各地の小さな祭りや祈りの場を訪ね、人と人、そして地域と歴史をつなぐ営みを記録しています。