由木の小さな歴史の痕跡を探しておさんぽ

小さな寄り道

一ノ宮の交差点を越えて─小野神社への寄り道 | 東京都多摩市一ノ宮

写真・文:しみずことみ

「一ノ宮」の名に導かれて

私はある日、府中方面に私用があり、いつものように自転車でのんびり向かっていました。
この日は特に急ぎでもなく、「もし道中に気になる祠や石仏があったら、写真を撮りながら進もう」と、カメラを肩に下げて出発したのです。

野猿街道を東へ。多摩川に向かって緩やかに下っていくこの道は、交通量こそ多いものの、時折ひらける景色の中にかすかな郷愁を感じさせます。
そんな道をしばらく走った頃、ふと目に留まったのが「一ノ宮」という交差点の標識でした。

「一ノ宮?」

気になって、自転車を端に止め、スマホで地図を開いてみると、すぐ近くに「小野神社」という場所が表示されていました。
航空写真を見る限り、鬱蒼とした木々に囲まれた、比較的大きな神社のようです。

もしかしたら、ここが「一ノ宮」という地名の由来かもしれない。
そんな予感がして、私は目的地を変更し、小野神社へと向かうことにしました。

▲ ふと通りかかった一ノ宮の交差点。野猿街道と川崎街道が交差する。


ダンジョンのような街並み

「一ノ宮」の交差点を渡り、京王線の踏切を越えてすぐ、道は住宅街へと入ります。
そこから先は、細く曲がりくねった道が続く、まるでダンジョンのような風景でした。

初めて来た私には、地図と目の前の景色を照らし合わせながら慎重に進むしかなく、「まるで余所者がたどり着けないように街が組まれているみたいだな」と、冗談半分、本気半分で思ってしまったほどです。

そんな道を抜けた先、小さな水の流れが現れ、その奥に静かに佇む神社の姿が見えてきました。


武蔵一之宮と刻まれた石柱

自転車を駐車場の隅に停めて、正面から神社に入ろうと歩き出します。
参道の入口に建てられた立派な石柱には「武蔵一之宮 小野神社」と彫られていました。

それを見て、先ほどの「一ノ宮」という地名の由来がこの神社であることに、確信が持てました。

大きな鳥居の向こうには、立派な随神門が構えています。
その佇まいには、荘厳さと同時に、どこか懐かしさのようなものが感じられました。

▲ 境内入口に建つ石の社号標。「武蔵一之宮」の文字に、背筋がすっと伸びる思いがした


境内へと続く静かな時間

門の先に続く石畳の道を進みながら、ふと足を止めました。
目の前に広がるのは、陽の光に照らされた鮮やかな赤の社殿と、左右に並ぶ狛犬たち。
その姿はまるで、訪れる人々の記憶をそっと受け止めてくれているようでした。

▲ 門をくぐると、深い静けさに包まれた本殿が現れる

▲ 荘厳で力強い獅子の彫刻が、静かに来訪者を迎えてくれる

随神門には見事な木彫りの彫刻が施されていて、私はその迫力と繊細さにしばらく見入ってしまいました。


境内の空気と祈りのかたち

本殿は鮮やかな朱色に塗られ、周囲の深い緑と美しい対比を描いています。
手水舎で手を清め、本殿の前に立ち、静かに手を合わせました。

▲ 朱塗りの本殿が、深い緑に浮かび上がるように佇んでいた

▲ 赤い前掛けをした狐たち。祈りのかたちは、どこか親しみ深い

境内には小さな社もいくつかあり、稲荷社には赤い前掛けをした狐像が静かに座っていました。


水の流れる道を抜けて

神社の裏手を流れる小さな水路に沿って歩きました。
かすかな水音と、石畳の道。暮らしの傍にある風景が、ここにも残されていました。

▲ 神社の裏を流れる静かな水路。暮らしと祈りが、そっと寄り添っていた
どこか懐かしいような、知らないはずなのに知っているような——
そんな感覚を残したまま、小野神社をあとにしました。

▲ 境内から見た随神門。参拝者の多くは境内へ入るときに一礼するなど、信仰の厚さを感じた


また訪れたい場所として

背の高い木々に守られたこの場所には、日々の営みとともに、静かな祈りが流れている気がします。

私は再び自転車に乗り、来た道とは違う方角へ、静かにペダルを踏みました。
この道の先にも、またどこかに、知らない景色と出会えるかもしれない。

日常の延長にある、ほんの小さな寄り道。
けれどそこには、思いがけず心を静かに整えてくれる風景がありました。

また季節を変えて訪れてみたい。
そう思える場所が、またひとつ増えました。


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