文・写真:しみずことみ
「親子で楽しむ」にはちょっとスリルあり?
2025年2月1日、小山内裏公園のパークセンターで開かれたイベント「親子で楽しむ さとやまブックファースト 瓦尾根瓦窯跡」に参加しました。
タイトルには「親子で楽しむ」とありましたが、当日親子での参加は私たちだけ。他には祖父と孫のペアが一組、あとは中高年層の歴史好きな方々が多いようでした。
この瓦窯跡は、あの「ブラタモリ」でも紹介された場所。実際にタモリさんが訪れたことがあると聞き、思わず親の方が胸を躍らせてしまいます。
今回の目的は、小山内裏公園サンクチュアリ内にひっそりと残る1200年前の瓦窯跡を訪ねること。日々、近くの山を歩いて遺物を探している息子と共に、静かな探検へと出かけました。

[写真解説]解説会の様子。会場は静かな熱気に包まれていた。
解説と資料、そして“ご縁”との出会い
最初に行われたのは、パークセンター内での解説会。室内に入り席に着くと、配布資料の中に「はちとぴ」の最新号がありました。表紙の写真を担当したのは私自身で、本編内にも私が撮影した写真、そして「由木ぶら散歩の会」の活動記事も掲載されていました。偶然とは思えない出会いに、静かに驚きを覚えました。
解説では、この地に存在していた瓦窯の構造や歴史的背景についてのお話がありました。見学先である瓦尾根瓦窯跡は、7世紀末から8世紀ごろに操業していたと考えられ、「ロストル式平窯」という構造を持っていたそうです。

[写真解説]配布資料の中に見つけた「はちとぴ」の最新号。偶然にも表紙は自分の撮影写真。 「由木ぶら散歩の会」などの活動も掲載されていて、ご縁が重なっていく一冊。

いざ、サンクチュアリの森へ
ヘルメットを装着し、いよいよ森の中へ足を踏み入れます。普段は立ち入りが制限されている自然保護エリアに入るという行為に、心が静かに高鳴ります。
道中は予想以上に急勾配で、登山のような感覚すらありました。2024年秋にぶら散歩の会で訪れた別のサンクチュアリは平坦でしたが、今回の道はまったく印象が異なりました。それでも、息子にとっては「これくらいは冒険じゃない」と、やや物足りなさを感じていた様子。日頃から遺物探しのために山を歩いているせいか、その表情には頼もしさが滲んでいました。
窯跡に着いたときには、地形に残る痕跡や実際の構造が目の前に広がり、言葉では言い表せないような実感が胸に広がっていきました。

[写真解説]サンクチュアリの森を進む。冒険のはじまりは、緑の中から。

[写真解説]瓦窯跡の手前でまずは解説。斜面が急すぎるのでここからは足に自信のある人だけという条件付きだった。

[写真解説]瓦窯跡に到着。写真の範囲はほぼ瓦窯跡。斜面の途中にひっそりと、1200年の記憶が眠る。
瓦に触れるという体験
探検を終えてパークセンターに戻ると、出土した瓦片の展示が用意されていました。
「触っても大丈夫です」という案内に、そっと手を伸ばしました。
文様の深さや焼き色の濃淡、断面の厚みや重さ——ひとつひとつの瓦に、確かに誰かの営みが残されているように思えました。解説は東京都埋蔵文化財センターの方が担当され、子どもにも分かりやすく話してくださいました。息子も真剣な眼差しで耳を傾けていたのが印象的です。
かつてこの窯跡の周辺は、自由に出入りできる場所だったといいます。地元の子どもたちは、瓦を探しながら遊んでいたとのこと。遺物が遊び道具になるような環境。かつてこの土地にあった日常の豊かさを、想像せずにはいられません。

[写真解説]展示された瓦片にそっと触れる。手のひらに重なる時の重み。

[写真解説]小山内裏公園の遺跡について直接解説をいただく息子。窯場はそれぞれ違う供給先があったという。
親子で記憶する“瓦の森”
ふと見上げた先に、瓦尾根の森が静かに広がっていました。ヘルメット越しに見た木漏れ日が、少しだけ違って感じられます。およそ1200年前、ここで焼かれた瓦が、いまも地中で静かに眠っています。歩いた道、耳にした声、心に残った風景。すべてが記録となって積み重なり、やがて記憶へと変わっていきます。
この日の記憶が、いつかまた、別の扉をそっと開いてくれるかもしれません。
文・写真:しみずことみ

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