由木の小さな歴史の痕跡を探しておさんぽ

小さな寄り道

高尾天神社と初沢城跡をたずねて— ぶら散歩の会の朝、集合前に | 東京都八王子市初沢町

写真・文:しみずことみ

2025年2月12日。
この日は「由木ぶら散歩の会」の第9回開催日でした。
集合場所の南大沢駅へ向かう前に、ひとつだけ足をのばしておきたい場所がありました。
それが、高尾山のふもとにある「高尾天神社」と、その裏手にひっそりと残る「初沢城跡」です。

住宅街の奥の小さな橋を渡って

京王高尾駅から10分ほど。
静かな住宅地のなかを歩いていくと、目の前に現れたのは細く古びたコンクリートの橋。かつての用水路か、信仰の道の名残か——この橋を渡った先から、すでにこの「寄り道」は始まっていたのかもしれません。

▲コンクリートの細道が小川をまたぐ。暮らしの裏にある、もうひとつの時間。


高尾天神社へ

細い坂道の先に、小さな石段と赤い鳥居が見えてきました。
高尾天神社は、学問の神さまとして知られる菅原道真公を祀る社で、またこの裏手には中世の山城・初沢城跡が眠っています。

この場所は市の史跡としても指定されており、「高尾天神社参道 菅原道真公御像 初沢山入口 初沢城址」と記された案内板が立っていました。日常と歴史が交錯する、そんな不思議な境界に立たされているような気持ちになります。

▲冬の日差しに照らされる高尾天神社の参道口。鳥居の左には「初沢山」の文字も。

▲冬木立に囲まれた高尾天神社の鳥居。葉を落とした梅の木々の間をぬけ、石の鳥居をくぐると、静けさに包まれた社殿へと続く道が現れます。冬の光が、境内にやさしく差し込んでいました。


眩しさとともに登る石段

参道の石段はなかなかに急で、息を切らしながら一歩ずつ登っていきました。
振り返れば、さっき歩いてきた住宅街と、冬の朝の澄んだ空気が広がっています。

▲まっすぐ伸びた急な石段。両脇に木々、上には青空。

登りきると、視界が一気に開けます。ここからは八王子の町並みが一望でき、その背後には丹沢方面の山並みも遠くにのぞきました。

▲見晴らしの良い視界がひらける。街の向こうに冬の山並み。


菅原道真公の像と静かな丘

頂上には、天神社の主神・菅原道真の像が静かに立っていました。
手には巻物と杖を持ち、遠くを見つめているかのような眼差し。ここが「学問の神」の地であることを、ただそこにあるだけで語っているようでした。

▲菅原道真公の立像。静かに、しかし確かに、ここに立っている。


そして初沢城跡へ

銅像の裏手には、さらに山道が続いています。そこが中世の山城・初沢城の跡地です。
木立のあいだを抜ける山道は、危険防止のため一部立ち入りが制限されていましたが、それでも道の先には、確かにかつての曲輪や堀の痕跡が残っているようでした。

▲杉木立のなかへと続く道。注意喚起の札が、今この場所も生きていることを教えてくれる。


忘れられた鉄のかたち

帰り際、境内の片隅にふと目をやると、何かの金具のような鉄製のパーツが、等間隔に並べられているのが見えました。もしかしたら船の係留に使うビットのようなものかもしれません。
何かしらの運搬・施設設備の記憶を思わせる、不思議な光景でした。

▲境内の片隅に、整然と並べられた鉄製の突起。かつての役目を思い浮かべる。


「少しだけ寄り道」の豊かさ

たった30分ほどの立ち寄りでしたが、日常の奥に潜む時間の深さを味わうには、充分すぎるほどの朝でした。
ここには観光地のような派手さはありません。けれど、確かに誰かが祈り、守り、忘れかけながらも残そうとした痕跡があります。

「ぶら散歩の会」が始まる前の、ほんの小さな寄り道。
けれどこの静かな朝の記憶は、心のなかで長く、優しく残っていきそうです。

写真・文:しみずことみ


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