文・写真:しみずことみ
同じ森に繰り返し足を運び、季節のうつろいのなかで植物の姿やふるまいに目を向けてみる。そうすることで初めて気づく小さな変化や、生きものたちの“選択”があること。
前回の記録とあわせて読んでいただければ、そんな発見を少しずつ積み重ねていく楽しさが伝わるかもしれません。
▶前回の記事:「近くの森に「生き方」をみる─長池公園で草木ウォッチング」を読む

この草木ウォッチングは、年間を通して全4回を予定している企画で、今回はその第2回目となります。
毎回テーマは共通して「その生き残り戦略を探る」。一見すると少し学術的にも聞こえるこの言葉には、植物の“今ここで生きるための工夫”を、私たちの暮らしと地続きのものとして感じてみようという願いが込められているように思います。
初夏の森へ:第2回草木ウォッチングの記録
2025年6月13日、長池公園を舞台に「第2回 草木ウォッチング ─その生き残り戦略を探る─」が開催されました。
主催は前回と同じく、高齢者あんしん相談センター南大沢の生活支援コーディネーター 青山さん。
講師は、森林インストラクターの長嶋信子さんです。
予報では夏日になるといわれていた当日。実際には曇天で、時折り吹く風が心地よい、森歩きにはちょうど良い天気となりました。
この日も定員いっぱいの参加者が集まり、長嶋さんのかけ声を合図に、静かな森のなかへと歩を進めます。初回よりも観察の時間がゆったりと取られており、歩みはとてもゆるやかでした。一つひとつの植物を立ち止まってじっくり観察しながら、五感で季節を味わうような時間が流れていきます。
道沿いには、しっとりとした空気のなかで凛と咲くアジサイや、風に揺れるノハナショウブ。色とりどりの草花が参加者を迎えてくれました。

▲講師の長嶋信子さん。参加者一人ひとりの目を見ながらやさしく語りかける。

▲一列に並んで、そっとアジサイに目を近づける。静かな観察の時間が、森に溶け込んでいく。

▲やわらかな光の中で咲くアジサイ。季節の深まりを、色のグラデーションがそっと知らせてくれる。

▲まだ咲き始めたばかりのアジサイ。中心の小さな両性花と、そのまわりを囲む飾り花──静かな戦略が、そっと姿を現します。
植物たちの“戦略”を観察する
今回の観察では「いかに花粉を運んでもらうか」「どうやって種子を作り、残し、運ぶか」といった視点から、植物がそれぞれに持つ生き残り戦略を読み解いていきました。
たとえば、アジサイ。よく見ると、花のように見える部分の多くは「飾り花(がく片)」で、実際の花は中央にひっそりと咲くごく小さなもの。飾り花は虫たちを引き寄せるための“呼び水”であり、種子を実らせる機能は中心の両性花が担っています。
また、ノハナショウブでは、内花被片や外花被片の重なり方や、めしべ・おしべのつき方まで丁寧に解説がありました。こうした構造の違いが、どんな虫を媒介者として選び、どう受粉に結びつけるのか──そんな視点で見てみると、花の姿がまるで違って見えてきます。
配布資料には図解やイラストも豊富に掲載されており、森の中での観察とリンクさせながら学びが深まっていくのを感じました。

▲ノハナショウブの花の構造をやさしく解説してくれる場面。手に取って観察することで、普段は気づかない“しくみ”が見えてきます。

▲星のようなかたちの白い花はテイカカズラ。香りを放ちながら、葉の陰でひっそりと咲いています。中心に空いた小さな穴の奥に蜜を隠し、長い口を持つ限られた生きものだけに報酬を与える──そんな選び抜かれた関係が、ここにもありました。
観察から対話へ:参加者の気づきとふりかえり
観察の後半では、自然館近くの広場で休憩をとりながら、それぞれが手元の資料にスケッチやメモを加えたり、実際の種子や花を見比べたりする時間が持たれました。
歩きながらの観察では気づかなかったことが、立ち止まり、座って眺めることで見えてくる。その時間が、対話やふりかえりへとつながっていく。自然を見るという体験が、話す・共有するという行為を通じて、静かに広がっていくのを感じました。

▲手にした植物をそっと掲げながら、「このかたちはね…」と語りかける長嶋さん。静かな問いかけに、まわりの参加者も思わず身を乗り出します。答えを教わるのではなく、植物と向き合う“まなざし”を育ててくれるような時間でした。

▲観察した植物の種子をそっと紙にのせ、メモを取りながらじっくり見つめる参加者の手元。ひとつの実物から、たくさんの問いと発見が生まれていきます。

▲ベンチに腰かけて、それぞれの気づきを言葉にする時間。静かな対話のなかに、観察で得た発見が少しずつ深まっていきます。
おわりに:同じ森を歩き続けること
森は、いつも同じように見えて、私たち人間の気づかないテンポで少しずつ確実に変化していきます。
同じ場所を、違う季節に、違う気持ちで歩く。そうしてふと見上げた枝先や、ふと足元に咲く花が、前回とは違う表情を見せてくれる。「草木ウォッチング」という体験は、そんな時間の重なりを静かに記録していく営みでもあります。
次回の開催は、12月を予定しているとのこと。また新しい森の顔に出会えるのが、今から楽しみです。
文・写真:しみずことみ

次回の草木ウォッチング開催のお知らせ
今回ご紹介した「草木ウォッチング」は、2025年12月に第3回が開催予定です。
観察する草木も季節によって変化し、新たな発見がきっとあるはず。
ご興味のある方はぜひご参加ください。
■ 第3回 草木ウォッチング
日程:2025年12月
場所:長池公園自然館入口(東京都八王子市別所2-58)
講師:長嶋信子さん(森林インストラクター東京会)
主催:高齢者あんしん相談センター南大沢(担当:青山さん)
申込:042-678-1880(5月13日10:00〜受付開始)
雨天時:延期予定