由木の小さな歴史の痕跡を探しておさんぽ

由木を歩く──由木ぶら散歩の会の記録

第12回 ぶら散歩|松木の丘に眠る記憶をたずねて─中世と平安の狭間へ | 東京都八王子市松木

2025年5月26日、第12回となる「由木ぶら散歩の会」が行われました。
今回のコースは、京王堀之内駅を出発し、松木の浅間神社を経てNo107遺跡のある丘をめぐり、最後は吉田観賞魚店に至る、約2.2kmの道のりです。
曇り空のもと、20名を超える参加者がそれぞれ資料を手に、歴史の断片に耳を傾けながら歩きはじめました。
前回は永林寺を訪ね、戦国時代の大石氏にまつわるお話を伺いましたが、今回はさらに時代をさかのぼり、平安の世へと想いを馳せるひとときとなりました。

▲ 松木浅間神社を見上げる参加者たち。中世から続く氏神信仰の地を、そっと見上げる視線に、それぞれの思いが重なっていました。


氏神さまのかたち─浅間神社に立ち寄って

松木の氏神信仰には、少し独特なかたちがあるようです。
明治政府が進めた「一村一社」政策によって、多くの地域では神社が統合されましたが、松木ではいくつかの氏神がそれぞれに守られてきたといいます。

中世、この地を開拓した土豪や地侍──熊沢、吉田、小田といった一族が、それぞれの神を祀っていたのかもしれない。そんなお話に耳を傾けました。

浅間神社の境内には、宝篋印塔がひっそりと建っています。
江戸時代にまとめられた『新編武蔵国風土記稿』には、この塔が松木七郎の墓であると記されているそうですが、実際の没年とは合わず、伝承がそのまま記されたものとも考えられているようです。

一方で、塔に刻まれた銘文からは、成然禅尼という女性が、亡き夫の供養のために建てたのではないかという見方もあります。
この塔は1376年、南北朝の争いが続いていた時代に建立されたとされ、伊豆から運ばれた石材が使われているそうです。

▲ 「松木七郎の墓」と伝わる宝篋印塔の前で資料を手に。刻まれた文字に目を凝らしながら、中世からの記憶にそっと触れる時間。

▲近年の研究では、三次元スキャンによる調査で、南関東の他の塔と異なる特徴も見つかっているとのこと。その佇まいの美しさに、しばし言葉を失い、見入ってしまいました。


松木の丘と、静かな記憶の層─No107遺跡へ

丘の上にあるNo107遺跡は、戦国期の館跡とされてきましたが、発掘調査ではさらに古い時代の遺物が見つかっています。

出土したのは、須恵器や木皿、すずりなど。
8世紀末から9世紀初頭、平安時代のものであるとされ、ここが単なる生活の場ではなく、荘園の事務的な拠点であった可能性もあると紹介されました。

新八王子市史では、この遺跡が「弓削庄(ゆげのしょう)」の中心施設だったのではないかという記述もあるそうです。
「由木(ゆぎ)」という地名と、「ゆげ」という音のつながりから、地名の起こりを想像する視点も語られていました。

▲かつて館があったとされる松木の丘へ続く道。家々の間に残る緩やかな地形に、静かに往時の気配がにじむ。

▲大石宗虎屋敷跡にて。サルスベリの木のそば、吉田家の墓所を囲むように、静かに耳を傾ける時間が流れていました。

▲朽ちた幹の中にも、なお新たな枝を伸ばす──大石宗虎屋敷跡に残るサルスベリの古木。長い時の流れを静かに物語っているようでした。


金魚と水と─まちに残る養殖の記憶

丘を下りた先には、かつてこの地に広がっていた金魚の養殖池の名残が、いまもひっそりと残されています。
その営みを受け継いできた吉田観賞魚店を訪ね、この日は代表の吉田俊一さんから、さまざまなお話を伺うことができました。

戦後すぐ、京王百貨店の屋上での出店からはじまり、輸出、園芸、ガーデン事業へと広がっていった営み。
コロナ禍を経て、今も地域に根ざした店づくりを続けておられること。

そして、「鯉は平和の象徴なんです」と語ってくださった言葉。
新しい魚が入っても争わず、すぐに一緒に泳ぎはじめるという鯉の姿に、心を重ねる参加者も多かったのではないでしょうか。

▲吉田観賞魚にて。吉田俊一さんから、地域とともに歩んできた養魚の営みや、まちの移り変わりについてのお話をうかがいました。

▲吉田観賞魚でのお話を終え、緑に囲まれた店内を通って「オコジュ」へと向かう参加者たち。和やかな会話が交わされていました。


歩くことで見えてくるもの

由木ぶら散歩の会の原点、歩くことで見えてくる景色があります。

車では見過ごしてしまう小さな谷の窪み。
かつて水が流れていた場所の痕跡。
祠のかたち、足元の草花、風の流れ。

吉田さんが語ってくださった、魚や草木を手入れするお話のなかに、まちを育てることのヒントがあるような気がしました。
ひとつひとつの積み重ねが、風景をかたちづくっていくのだと、あらためて思う。
そんなお散歩となりました。

▲道の先に、また新たな風景が待っている──それぞれの足取りで、日常の中の物語を探しにゆく。


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【シリーズ】由木を歩く── 由木ぶら散歩の会の記録


次回予告

次回もまた、地域の歴史や自然、人との出会いをテーマに歩みを続けていきます。詳細は決まり次第、サイトやLINEにてお知らせしますので、どうぞお楽しみに!


参加方法・会場案内

「ぶら散歩」は、毎月第2月曜日に定例会を行っています。どなたでもお気軽にご参加ください。

開催日時毎月第2月曜日 15:30〜17:00
会場子育て広場「いずみ」
〒192-0364 東京都八王子市南大沢5-12
アクセス南大沢駅より徒歩12分 または 京王バス「だいり谷戸公園」下車 徒歩5分

お問い合わせ・申込先

高齢者あんしん相談センター南大沢(担当:青山)


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