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地域のまつりと祈り

南八幡宮例大祭──若さと響き合う祭りのかたち | 東京都八王子市堀之内

八月の終わり、強い日差しのなかに、かすかに秋の気配を含んだ風が吹いていました。
堀之内の住宅地の一角にある南八幡宮では、例大祭の日を迎えていました。
鳥居をくぐると、赤と白の幕が張られ、神楽殿の舞台の前には人の輪ができていました。
境内のあちこちに漂う期待の気配。
それは、ただ祭りを待ちわびるというよりも、ようやくここまでたどり着いたという安堵にも似ていました。

▲夏空の下、石造りの鳥居をくぐると、例大祭の空気が広がっていました

途絶えていた時間

この神社の祭りは、かつて氏子たちが手作りで盛り上げてきたものでした。
焼きそばや綿あめを並べる屋台も、近所の人が協力して担ってきたものです。
夏の日の記憶の中にある、子どもたちの笑い声や、境内いっぱいに広がる熱気。
それが当たり前のように、ここにありました。

けれども、コロナ禍によってその流れは途絶えます。
境内には人が集まらず、神事だけがひっそりと執り行われる年が続きました。
にぎやかさの消えた境内を思い浮かべると、その空白がどれほど長く感じられたか、想像に難くありません。

「せっかく集まるのだから、また何かできないか」
そんな声が少しずつ総代の間に広がり、まずは境内で直会を開催し、親睦を深め絆を取り戻していきました。
そして次第に、祭りの火を消さないための試みが形になっていったのです。


新しい工夫──キッチンカーの並ぶ境内

▲境内に並んだキッチンカー。新しい工夫が祭りを支えます。

氏子の高齢化もあり、従来のように屋台を一から準備するのは難しくなっていました。
そこで出てきたのが「アウトソーシング」という言葉。
総代が照れくさそうに笑いながら話してくれたその一言には、時代の移ろいが映し出されていました。

境内に並んだのは、カラフルなキッチンカー。
レモネード、焼きそば、唐揚げ、かき氷、ポップコーン。
漂う香りに誘われ、子どもたちが小さな手をのばし、親にねだる姿が見られます。
屋台を切り盛りする人の数が減っても、こうして別の形で賑わいは受け継がれていきます。

人々は食べ物を手にして木陰に腰を下ろし、談笑をはじめます。
それは、昔からの祭りと同じように、人と人を結びつける場となっていました。

▲長年使われてきた大うちわには、地域の人々の祈りと時間が刻まれています。


音楽がひらく空気

やがて、神楽殿の舞台に若者たちが並びました。
まずは都立松が谷高校吹奏楽部の演奏です。
昭和の歌謡曲からポップスまで、軽やかなメロディーが風にのって境内を駆け抜けます。
観客の中には自然と歌を口ずさむ人もいて、音楽に包まれたひとときは、時を越えて心をつなげていました。

▲松が谷高校吹奏楽部の奉納演奏。軽やかな音色が境内を包みました。

▲演奏に耳を傾けながら、自然と口ずさむ人の姿も。

次に登場したのは、都立八王子桑志高校の和太鼓部。
昨年、偶然居合わせた生徒が「太鼓を叩かせてほしい」と飛び入り参加したことから生まれた縁が、今年は正式な奉納演奏につながりました。
法被姿の若者たちが力いっぱいに打ち鳴らす太鼓の響き。
胸の奥に響き渡る音に、観客は身体を揺らしながら拍手を送ります。

吹奏楽と和太鼓。
響きの異なる二つの音色が、同じ祭りの奉納の舞台を彩ります。
その光景は、これまでにない一体感を生み出していました。

▲八王子桑志高校和太鼓部の力強い響き。境内に熱気が広がります。


神輿を担ぐ若者たち

奉納演奏が終わると、境内にあった子ども神輿が参道へ移されました。
担ぎ手には、松が谷と桑志、二つの高校の生徒たちが加わっています。
若者たちのかけ声が響くと、神輿が揺れ動き、祭りはさらに熱を帯びていきました。

それを見ていた小さな子どもたちが、声をあげます。
「はやくお神輿したい!」

次の瞬間、よちよち歩きの子も混じりながら、子ども神輿の列ができていました。
肩に重みを感じながらも、誇らしげに前を見つめる子どもたち。
その足取りを支えるように、高校生や大人たちが自然に手を添えていました。

神輿が境内を一周したとき、子どもたちの顔には達成感が宿っていました。
世代を超えてつながる瞬間。
そこには言葉を超えた温かさがありました。

▲松が谷・八王子桑志高校の生徒たちが子ども神輿を担ぎ、会場を盛り上げます。

▲『はやくお神輿したい!』という声に応えて、子どもたちも元気いっぱい参加。

▲よちよち歩きの子どもも高校生や大人に支えられながら境内を一周。

▲南八幡宮の境内に響いた手拍子。大人も高校生も子どもも、同じ輪の中に。


総代の言葉

祭りの合間に、総代が笑顔で話してくれました。
「やっぱり若いっていいよね!」

その言葉は単なる感想ではなく、この祭りの姿を象徴するものでした。
高齢化の進む地域で、高校生たちの存在が新しい息吹をもたらしている。
彼らの力が加わることで、祭りはただ存続するだけでなく、未来へと続いていく希望のかたちを見せていました。

▲伝統を受け継ぐ大うちわを手にした若者の笑顔。祭りの未来を映しています。

▲大きな太鼓に手を添える小さな子。祭りの未来がここに息づいています。


祈りのかたち

南八幡宮の例大祭は、神事を中心に据えています。
神様にお供えした海山の幸をお下げし、直会で人も同じものをいただく。
それは「神人共食」と呼ばれる形で、神様と人とが食を通じてひとつになる祈りの時間です。

直会のあとには、ご神酒が振る舞われ、奉納演奏や奉納演芸が続きます。
楽しむことそのものが、祭りの大切なかたちでもあるのです。
そして最後に、神様に神輿へとお乗りいただき、地域の人々がひとつになって盛り上がる。
総代は「それが祭りの基本形」と話してくれました。

南八幡宮の例大祭もまた、その流れを大切に受け継ぎながら、新しい工夫を重ねています。

▲子ども神輿を囲む人々の笑顔。祈りのかたちは、世代を超えて受け継がれていきます。


結び──来年へ

午後のひととき、境内に響いていた演奏や子どもたちの声も、次第に落ち着きを取り戻していきました。
まだ余韻を残したまま、祭りは静かに締めくくられていきます。

耳に残る音楽や太鼓の響き、子どもたちの笑顔。
その一つひとつが、心の中で温かな記憶となって残ります。

来年もきっと、この場所で笑顔と声が響き合うことでしょう。
南八幡宮の夏祭りは、地域と若い力が出会い、新しい歴史を紡ぎはじめています。

その未来を思い浮かべると、胸の奥が少しあたたかくなるのです。

▲祭りを支えた若者たちと子ども神輿。未来へと続く絆がここに刻まれました。


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