由木の小さな歴史の痕跡を探しておさんぽ

地域のまつりと祈り

宵宮の記憶と赤く染まった空 — 大塚八幡神社例大祭 宵宮編| 東京都八王子市大塚

写真・文:しみずことみ

2024年8月31日、夏の終わりを告げるかのように、由木の地には激しい雨が降りしきっていました。
この日、八王子市内では土砂災害警戒情報も出され、一部地域では不安の声も聞こえていたほどです。
そんな中、それでも予定通りに宵宮は静かに、しかし確かに行われていました。場所は、地域の鎮守・大塚八幡神社。翌日に控えた例大祭を前に、境内には人々の営みと祈りの時間が流れていました。

激しい雨とともに始まる宵宮

この夜、私は例大祭当日の記録撮影のため、知人の案内で前日から神社を訪れました。
しかし、現地に足を踏み入れた瞬間、目の前に広がったのは想像以上の光景でした。
雨は容赦なく地面を打ちつけ、傘を差していても全身が濡れるような状況。それでも、境内では屋台が並び、テントの下では氏子や町会役員たちが集い、談笑し、酒を酌み交わしていました。
自然の厳しさをものともせず、いつも通りに祭りの宵を過ごすその姿には、不思議と頼もしさと粋さが漂っていました。

宵宮当日、激しい雨の中でも神社の境内では変わらず準備が続けられていた。(撮影:しみず)


準備万端の神輿と太鼓──明日へ託された思い

境内の一角には、例大祭当日に曳かれる大きな和太鼓が、ブルーシートで丁寧に覆われていました。
「明日は晴れるだろう」。
そう信じるように、太鼓もまた、静かに出番を待っているように感じられました。
台風の影響で空模様が不安定な中でも、準備を怠らない氏子たちの姿勢からは、祭りを絶やさず続けていく覚悟が伝わってきます。
それは単なる行事の維持ではなく、地域の歴史と結びついた深い「祈り」のようにも思えました。

明日に備えて静かに待つ太鼓もまた、地域の誇りのようだった。(撮影:しみず)


空が紅く染まった、神さまからの励まし

そんな宵宮のひとときに、思わぬ光景が訪れました。
雨が降り続く空が、一瞬だけ真紅に染まったのです。
台風の影響によるものなのか、暮れなずむ境内の頭上に広がるその色は、あまりにも鮮烈で、現実感を失うほど幻想的でした。
その光景を目にした瞬間、不思議と胸にこみ上げるものがありました。
「狼狽えることはない。明日は大丈夫だよ」と、神さまが静かに語りかけているようで、思わず手を合わせ、そっと拝みたくなったのです。

短い時間だけ、空が不思議なほど赤く染まった──まるで神さまからの励ましのように。(撮影:しみず)


覚悟とともに迎える、特別な夜

雨音に包まれた宵宮は、賑やかさよりも静けさが印象的でした。
境内の灯りは水面に映り、行き交う人々は皆、濡れた足元を気にしつつも、どこか穏やかにそのひとときを楽しんでいるようでした。
明日、晴天のもとで例大祭が無事行われることを願う気持ちは、きっと誰しもが抱いていたことでしょう。
けれどこの夜、神社に集った人々の表情からは、「雨でも、この場に集うことが大切」という、まさに地域のまつりが持つ本質を感じることができたのです。

(撮影:しみず)

夜が更けても、雨は止む気配を見せませんでした。
それでも境内には、最後まで笑顔を絶やさない人々の姿がありました。

この雨はきっと、まつりを止めるためではなく、地域の絆をより強く映し出すためのものだったのかもしれません。
翌日、大塚八幡神社の例大祭はこの雨の中で迎えられることとなります。
それでも、人も神輿も、そして地域の誇りも、雨の帳を越えて力強く巡り続けることになるのです。

濡れた石段の先に、明日への願いが静かに灯っていた。(撮影:しみず)


写真・文:しみずことみ

翌日の例大祭の様子はこちらから

2024年 大塚八幡神社例大祭 神輿巡行の記録記事一覧

[宵宮の記憶と赤く染まった空 — 大塚八幡神社例大祭 宵宮編]
[雨の中、力強く — 大塚八幡神社例大祭 神輿巡行(昼編)]
[夜空に響く掛け声とともに — 大塚八幡神社例大祭 神輿還御の記録(夜編)]

RECOMMEND
RANKING
DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

RELATED

PAGE TOP