このまちには、声高に語られることはないけれど、確かに積み重なってきた時間があります。
東京都八王子市、由木地域。
丘陵に抱かれた谷戸や、静かな道の曲がり角、暮らしのそばに残る祈りのかたち。
華やかな観光地でも、時代を大きく動かした出来事の舞台でもありません。
けれど、この場所には、人が暮らし、歩き、立ち止まりながら重ねてきた時間が、いまも息づいています。

▲下柚木御嶽神社の拝殿脇の様子(下柚木)
「気まぐれ史跡写真」は、そうした場所で出会った風景や営みを、写真と言葉でそっと残している記録です。
研究や調査としてまとめるのではなく、また、特別な瞬間だけを集めるのでもなく。
日々の暮らしのなかで、ふと気づいたことに目をとめ、そのままのかたちで置いておく。
そんな記録の積み重ねから、この場所は続いています。

▲永林寺薬師堂の石仏群(下柚木)
子どもの頃から、
「この場所は、少し前にはどんな景色だったのだろう」
「ここを歩いていた人たちは、どんな暮らしをしていたのだろう」
そんなことを、よく考えていました。
写真を撮るようになってからは、目の前の風景が、少しずつ姿を変えていくことに気づきます。
畑がなくなり、道が姿を変え、当たり前だった景色が、静かに過去になっていく。
その変化に気づくたび、いま見えているものを、いまの感覚のままで残しておきたいと思うようになりました。

▲御嶽駒形神社前の旧道(東中野)
私はこの地域の歴史や文化、信仰を、正面から語れる立場にいるわけではありません。
けれど、歩きながら、立ち止まりながら、ときどき垣根のすき間から、そっとのぞき見るようにして、この場所に流れてきた時間に触れてきました。

▲鑓水諏訪神社の灯籠(鑓水)
この記録で大切にしているのは、特別な場所や出来事を選び取ることではありません。
自分の足で歩き、場所の空気や光を感じること。
過去と今をきっぱり分けず、重なり合う時間として受け取ること。
そして、人の声や想いを、できるだけそのままの温度で記すこと。
記録は、ときに静かで、目立たないものかもしれません。
すぐに役立つ情報でもないでしょう。
けれど、こうした積み重ねが、いつか誰かにとって、小さな手がかりになることもある。
そう信じながら、歩き、写真を撮り、言葉を残しています。

▲永昌院(中山)
由木という土地は、これからも変わり続けていきます。
それらが完全に失われてしまう前に、「ここに、確かにあった時間」をそっと置いておく場所にしたいと思います。
この記録が、この場所をよく知る人にとっては懐かしさを、初めて触れる人にとっては新しい視点を、そして未来の誰かにとっては、このまちを知るための静かな入口になれば幸いです。
どうぞ、気まぐれに。
興味の向くままに、ページをめくってみてください。
ここには、過去と今とがやさしく交差する、いくつもの「途中」が残されています。
写真・文:しみずことみ

