由木の小さな歴史の痕跡を探しておさんぽ

体験と記録のアーカイブ

伝えることを仕事にするということ──宮上中学校キャリア教育 | 東京都八王子市南大沢

2026年7月22日、八王子市立宮上中学校でキャリア教育の講師を務める機会をいただきました。

今回お話ししたのは、カメラマンとしての仕事、Webライターとしての仕事、そして「気まぐれ史跡写真」で続けている地域の記録活動についてです。

けれど、本当に伝えたかったことは、職業の話ではありませんでした。

どんな仕事を選んだとしても、社会の中で生きていくうえで共通して必要になる、一つの力について考えてもらいたかったのです。

それは、「自分が感じたことを、相手に伝わる形へ翻訳する力」です。

▲新年祭に向けた大鈴の準備の様子(2024年12月筆者撮影)

写真も文章も「伝える」ための手段のひとつ

私の仕事は、カメラマンであり、ライターであり、記録者です。

写真を撮ること。
文章を書くこと。
そして、地域で出会った風景や人の営みを記録すること。

一見すると、それぞれ違うことをしているように見えるかもしれません。
けれど、私の中では、すべて同じところにつながっています。

それは、目の前にあるものや、そこに込められた思いを受け取り、誰かに伝わる形へ翻訳することです。

カメラマンの仕事では、ただ自分が撮りたい写真を撮れば良いわけではありません。
依頼してくださった方が、何を伝えたいのか。
その写真を、誰に見てもらいたいのか。
何のために使うのか。
そうしたことを考えながら、必要とされているものを写真の形にしていきます。

ライターの仕事も同じです。
話を聞き、それをそのまま並べるのではなく、何を伝えるべきなのかを考え、読む人に届くように言葉を組み立てます。

そして、記録することも同じです。
今ここにある風景や人の営みを受け取り、未来の誰かにも伝わる形で残していく。

写真は、そのための方法のひとつ。
文章も、そのための方法のひとつです。


地域を歩く中で続けてきたこと

授業では、私が地域で続けている活動についてもお話ししました。

由木地域を歩きながら、小さな歴史の痕跡を探し、写真を撮り、話を聞き、ことばとともに残していること。
南大沢町会や南大沢八幡神社、由木地区環境市民会議など、地域のさまざまな場所に関わりながら記録を続けていること。
パルテノン多摩ミュージアムの市民学芸員として、地域の歴史を調査し、記録・保存・展示などにつなげていく活動に参加していること。

これら地域での活動についても、実際に現場で撮影した写真とともに、生徒のみなさんに紹介しました。

一見すると、それぞれが別々のことのように見えるかもしれません。

しかし私にとっては
写真を撮ること。
記事を書くこと。
地域活動に参加すること。
というのは、すべて「伝える」という一本の線でつながっています。

授業のスライドには、

「見えているものや感じたことを、自分以外の人にも伝わるように形(写真やことば)にする」

という言葉を置きました。

この日の授業で一番伝えたかったことを、まとめるとこの言葉になるのだと思います。

▲長池里山クラブと秋葉台小学校の生徒たちによる稲刈りの様子(2025年10月筆者撮影)


教材になった、南大沢八幡神社の大鈴

後半では、その「伝える」ということを、実際に撮影しながら考え、体験してもらいました。

今回の被写体は、南大沢八幡神社で約50年にわたり、人々の祈りを見守ってきた大鈴です。
役目を終え、処分される予定だったこの大鈴は、ご縁があって私のもとへやってきました。

神社総代をはじめ、関係者の皆さまのご理解をいただき、今では地域の歴史や「記録すること」を伝える教材として、新しい役割を担っています。

▲八王子市立秋葉台小学校サマースクールの際の大鈴の様子(2026年7月筆者撮影)

▲八王子市立柏木小学校郷土学習で昔の南大沢について語る神社総代(2026年3月筆者撮影)

ただ、すぐに写真を撮ってもらったわけではありません。

まずは、この鈴がどこにあったものなのか。
どんな時間を重ねてきたのか。
その背景を知ってもらうところから始めました。

ニュータウン開発前の南大沢八幡神社。
現在の社殿が建てられた頃の風景。
祭りの日に地域の人たちが集まる境内。
年末に、人の手で神社が整えられていく様子。
その中に、この大鈴がありました。

初詣に訪れた人の願いを聞き、祭りの日の賑わいを見ながら、長い間、地域の移り変わりを見てきた鈴です。

▲多摩ニュータウン開発前の南大沢八幡神社の様子(所蔵:谷合徳行氏)

▲南大沢八幡神社会改築落成記念写真(1976年8月撮影者不詳)

▲新年祭に向けた準備の様子(2024年12月筆者撮影)


まず、見て、触れて、感じてみる

大鈴の背景を知ったあと、生徒のみなさんには実際に触れてもらいました。

授業のスライドでも、撮影の前に、
「神社の鈴に実際に触れてみよう」
というステップを置いています。

そして、
「思ったこと・感じたこと・想像したことを書いてみよう」
と続きます。

重さはどうだろう。
手触りはどうだろう。
どんな色に見えるだろう。
鳴らしてみると、どんな音がするだろう。

感じ方に正解はありません。
同じ鈴に触れても、「重い」と感じる人もいれば、「思ったより軽い」と感じる人もいます。
表面の傷に目が向く人もいれば、長い時間を経た色に目が向く人もいる。

まず、自分で感じて受け取ること。
そこから「何を伝えたいのか」が始まります。

▲南大沢中学校のSTEAM教育で実際に参加者が大鈴に触れている様子(2026年7月筆者撮影)
※地域の様々な教育現場で教材として活躍しています。


「この鈴を見てみたい」と思ってもらうには

そのうえで、ようやく撮影です。

生徒のみなさんにお願いしたテーマは、

この大鈴の持つ物語や背景を踏まえて、南大沢八幡神社の大鈴を主役にした展示を企画するとして
『この鈴をぜひ見てみたい!』
と思ってもらうために、どんな写真を撮ればいいだろう。

というものでした。

これは、正解のある課題ではありません。
大切なのは、自分がこの鈴から何を受け取ったのか。

そして、それをまだこの鈴を知らない人へ伝えるには、どんな工夫をすればよいのか。
そこを考えてもらうことでした。

▲雪景色の中の南大沢八幡神社。大鈴は付け替えたばかりの新しいもの。(2026年2月筆者撮影)


同じものを見ても、見えているものは違う

撮影が始まると、生徒のみなさんはそれぞれ違う方法で大鈴と向き合い始めました。

ある人は、大鈴を抱えてみました。
ある人は、光が差し込む窓辺へ運びました。
近づいて、金属の質感を写そうとする人。
少し暗めに撮り、神社らしい厳かな雰囲気を表現しようとする人。
人物を入れることで、大鈴の大きさや存在感を伝えようとする人。

同じ大鈴を前にしていても、見えているものも、感じているものも、一人ひとり違います。

生徒自身が、自分の中にある感覚を「どうすれば写真で相手へ伝えられるか」と考え始めていることを感じました。
そこには、すでに「翻訳する」という行為が始まっています。

授業の最後には、人物と大鈴を組み合わせた写真を見ながら、
「守りたい、この歴史」
という言葉も生まれました。

最初から私が用意していた言葉ではありません。

鈴の背景を知り、実際に触れ、写真としてどう見せるかを考える中から出てきた言葉でした。
大鈴という「物」の向こう側にある時間まで受け取ってくれたように感じられて、嬉しくなりました。

▲明るさが違うだけで写真の伝える情報やメッセージが変わる


「伝える力」は、生きる力になる

今回、生徒のみなさんに体験してもらいたかったのは、写真を上手に撮るための技術ではありません。

ひとつのものについて知る。
自分の目で見て、触れて、感じる。

そこから、
「自分は何を伝えたいのだろう」
と考える。

そして、自分の中にあるものを、そのまま相手へ投げるのではなく、相手に届く形へ工夫する。

私は、この一連の過程そのものが「伝える」ということなのだと思っています。

それは、カメラマンやライターだけに必要な力ではありません。

どんな仕事に就いたとしても、人と関わりながら社会で生きていく以上、自分の考えや相手の求めていることを理解し、届く形へ整える場面はきっとあります。

人と向き合う仕事。
ものをつくる仕事。
誰かを支える仕事。
仕組みを考える仕事。
技術や知識を生かす仕事。
地域や社会を動かしていく仕事。
表に立つ仕事もあれば、見えないところから支える仕事もあります。
それぞれ役割も、使う言葉も、必要とされる技術も違います。

けれど、自分の考えを相手に伝えたり、相手が何を必要としているのかを受け取ったり、それをよりよい形にして返したりすることは、多くの仕事に共通しているのではないでしょうか。

そしてこれは、仕事だけの話でもありません。

友人との関係でも。
家族との会話でも。
地域で人と一緒に何かをするときでも。

自分の気持ちを持つことと、それを相手に伝えることは、同じではありません。
相手に届くように言葉を選んだり、表現を工夫したりする。
同時に、相手が何を伝えようとしているのか想像してみる。

それができれば、すれ違いのいくつかは小さくできるかもしれません。

私は、そんな「伝える力」もまた、これからを生きていくための大切な力のひとつだと思っています。

▲中山白山神社子供神輿の様子(2025年9月筆者撮影)

▲団地の親睦行事の様子(2025年9月筆者撮影)


記録活動を続ける理由

「気まぐれ史跡写真」で続けている、地域の記録活動も同じです。

地域で出会った風景や人の営み。
そこにある思いや歴史を、自分なりに受け取り、未来へ伝わる形へ翻訳していく。
それが、私の記録活動です。

今回の授業では、その考え方を、生徒のみなさんへ少しだけ手渡すことができたような気がしています。

伝えるための技術も大切ですが、その前にあるのは、相手の立場を想像し、届く形を考えることなのだと思います。
その積み重ねが、人との関係をつくり、地域を支え、社会を支えていくのだと思います。

今回のキャリア教育で私が伝えたかったのは、写真の撮り方ではなく、これからどんな道を歩んだとしても必要になる「伝える力」でした。

私自身にとっても、生徒のみなさんの視点や発想から、多くのことを学ばせていただいた一日でした。

このような貴重な機会をくださった地域キャリア教育協力隊の皆さま、宮上中学校の先生方、関係者・協力者の皆さま、そして教材として大鈴を使うことをご理解くださった南大沢八幡神社の神社総代をはじめ関係者の皆さまに、心より感謝申し上げます。

[写真・文]しみずことみ

▲夏まつりでも大鈴は変わらず人々を見守っている(2024年8月筆者撮影)

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