今日は、由木乗合自動車を創設した石井善蔵さんのご子孫の方にお時間をいただき、ご自宅でお話を伺いました。
今回の訪問は、パルテノン多摩ミュージアム市民学芸員として関わっている、市民学芸員共同企画展「バスとまち 多摩丘陵北部~走った道、これからのカタチ~」の取材で、私は先輩市民学芸員と共に、やってきました。
けれど、お話を伺っているうちに、私の心に残ったのは、バスのことだけではありませんでした。
リビングに入ると、庭に面した大きな窓から、谷戸からの風が心地よく吹き抜け、私たちを迎えてくれました。
「皆さんが来る少し前にね、ジャコウアゲハが二匹羽化して、ここで羽を休めていたんですよ。」
間に合わなかったことを残念に思う私たちに、さらに笑顔で続けます。
「毎年恒例でね、多い年は一度に8匹くらい羽化するんです。」
私は思わず「まるで蝶屋敷ですね」と言葉にしながら、頭の中でイメージを膨らませます。
ジャコウアゲハは、幼虫がウマノスズクサ科の植物の葉だけを食べて育つ蝶です。
その植物を長年大切に育て、この庭は毎年蝶が命をつなぐ場所になっていました。
トンボやカワセミ、メダカたちも、この庭で季節を重ねています。
庭を眺めていると、この場所に暮らしているのは、人だけではないのだと、静かに教えられるようでした。

▲実際に軒下にいたジャコウアゲハの蛹
お庭には弁天様も祀られていました。
別の場所には、稲荷様や馬頭観音などもあるということです。
地域で暮らす人にとって、自然や祈りは、特別なものではなく、暮らしのすぐそばにあるものなのだと改めて感じます。
こうした風景は、私が普段歩いて記録している由木地域とも、どこか静かにつながっています。
もちろん、取材の中心は由木乗合自動車のお話でした。
けれど、その会話の中で、「気まぐれ史跡写真」の活動にも関心を寄せてくださり、石井善蔵さんの写真についても、サイトで使っていいですよ、とご快諾いただきました。
資料だけでは出会えない、人と人とのつながり。
それもまた、記録の大切な一部なのだと思います。
一枚の古い写真をきっかけに訪ねた場所で、
谷戸を渡る風に吹かれ、
毎年ジャコウアゲハが羽化する庭を眺め、
地域の自然と暮らしを大切に守り続けてきた時間に触れました。
そして今もなお、この地域の未来を見据え、
「これから地域をどうしていくか」を静かに考え、行動し続けている姿がありました。
「名主の家、地域の旧家に生まれたことで、背負う責任もある。」
その言葉には、過去を語る人ではなく、この土地の現在を生き、未来へつないでいこうとする人の思いが込められているように感じました。
今日伺ったのは、歴史のお話だけではありません。
地域に暮らし続けることの意味と、その土地に流れ続ける時間そのものだったのかもしれません。
歴史を記録しているつもりが、
今日もまた、地域の暮らしに出会わせてもらった一日でした。
[写真・文]しみずことみ
[取材日]2026年8月4日(火)
[場所]東京都八王子市中山

