由木のまちと大学のつながり
東京都八王子市の東部、由木地域にはいくつかの大学があります。
そのうちのひとつ、帝京大学では、地域の人々を対象にした多彩な公開イベントが行われていて、子どもたちや保護者が、学問にふれ、感性を揺さぶられる体験ができる場となっています。


2025年3月8日(土)
帝京大学総合博物館にて開催された、「縄文なぞとき教室」に、息子とともに参加しました。
主催は、今回初のイベントとなる大栗川縄文倶楽部。
地域の縄文文化を今に伝える、記念すべき活動の第一歩です。
学びは好奇心と共鳴から生まれる
イベントでは、博物館の学芸員・甲田さんによる展示解説が行われました。
「学ぶ」というより「語りかける」という雰囲気。
身振りを交えながら熱く語る姿には、研究の奥深さや発見のよろこびがにじんでいて、会場全体に“知ることの楽しさ”が伝わってきました。
子どもたちの目はきらきらと輝き、顕微鏡をのぞき込んで観察したり、展示の骨や土器を見て質問したり。学校の授業とはまた違う、“生きた学び”がそこにありました。

[写真解説]顕微鏡で観察中の息子

[写真解説]骨の展示前で話す甲田さん
拾った石が縄文土器だった
今回のイベントには、息子にとって特別な出来事がありました。
実は事前に「近所で拾った石」が何かの遺物ではないかと本人が感じており、それを持参していたのです。
展示の合間、甲田さんに見ていただいたところ、その石は「縄文土器の破片である可能性が十分にある」とのこと。
驚きと同時に、息子の表情には確かな誇りが浮かんでいました。
甲田さんはしゃがんで、息子と同じ目線で丁寧に話してくれました。
「お兄さんもね、子どもの頃は遺物みたいな石を拾い集めていたんだよ。そうして今、大人になっても、それを調べる仕事をしてるんだ。」
その言葉には、息子だけでなく、私の心までもが静かに揺さぶられるような、温かさがありました。

[写真解説]息子が近所で遊んでいる時に見つけたカケラ。

[写真解説]甲田さんが参考に見せてくれた資料。息子の持参したカケラの模様が112番の画像のものに似ているとのこと。
大栗川縄文倶楽部、最初の一歩
今回のイベントを主催した大栗川縄文倶楽部は、地元の有志4名によって結成。今回は倶楽部として記念すべき最初のイベントです。
由木地域を流れる大栗川流域には、縄文時代の遺跡が数多く点在しており、土器や石器が見つかることも珍しくありません。こうした歴史を「研究者だけのもの」にとどめるのではなく、地域の人々と共に学び、未来へつなぐ活動として始まったのがこの倶楽部。
今回の「縄文なぞとき教室」は、まさにその第一歩でした。
地域と大学、市民と研究者。その交わりが、これからの地域文化を形づくる重要な接点になる──そう感じさせる空気が、会場には確かにありました。

[写真解説]「なぞとき」に熱心に取り組む子どもたち。
息子が得たもの私が感じたもの
息子がこの日、何を感じ、どんな記憶として残していくのか──それはまだ分かりません。けれど、間違いなく「素晴らしい大人との出会い」があったこと。そして「自分の発見を誰かに受け止めてもらった」という体験は、彼の中に確かな何かを灯したように思います。
後日、タウンニュースにこの日の記事が掲載されました。「小学2年生の男児」として息子のコメントも紹介されています。けれど、私にとっては、その“男児”が確かに目を輝かせていた時間こそが、何よりも価値ある記録でした。

地域の大学がこうして子どもたちや地域住民に向けて開いてくれる場は、本当に貴重です。
学びとは、教科書をなぞるだけではない。人と出会い、モノにふれ、好奇心を膨らませていく過程そのものが、大切な経験なのだとあらためて感じました。
地域の過去と、いまの暮らし、そしてこれから──
そんな時の流れを、こうした小さな体験を通じて感じていけたら。
そのために、これからも私は、こうして「記録していく」ことを続けていきたいと思います。
写真・文:しみずことみ

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