由木の小さな歴史の痕跡を探しておさんぽ

小さな寄り道

中和田天満宮──大栗川のほとり、静かに佇む天神様 | 東京都多摩市和田

文・写真:しみずことみ


街道のすぐ脇、気になっていた小さな鳥居

八王子市と多摩市の市境、ほとんど八王子といってもいい場所に中和田天満宮はあります。
野猿街道を自転車で通るたび、ふと視界に入る小さな鳥居。ずっと気になりながらも、通り過ぎていた場所です。
この日はようやく鳥居をくぐる決心がつき、いつものように自転車を走らせてやってきました。

すぐそばには大栗川が流れ、鳥居の脇には湧水のような水が滲み出しています。辺りはしっとりとした空気が漂い、少しだけ背筋が伸びるような、そんな気配があります。

2022.11.04 しみず撮影

2022.11.04 しみず撮影


急な石段の上、ひっそりと佇むお社られた小さな社と石碑

鳥居をくぐると、すぐに急な石段が始まります。手すりもつけられた短いけれど険しい坂を登り切ると、そこにひとつのお社が現れます。
木立に囲まれた小さなお社。その佇まいは素朴で、静けさに満ちていました。
お社の脇には、朽ちた木製鳥居の上部だけが顔をのぞかせています。かつては今よりも大きな参道が整えられていたのでしょうか。今は草に覆われ、時間の流れだけがその存在を物語っています。

2022.11.04 しみず撮影

2022.11.04 しみず撮影


由緒と歴史──かつての中和田村を伝える社

境内に立つ石碑によれば、この中和田天満宮は江戸時代中期の享保年間(1716〜1736年)に、村内の氏神として創建されました。
もともとは村の中心部に近い「赤小練塀」という場所にありましたが、昭和の初めに今の地に移されたそうです。移転の際には御神体や社殿、石灯籠などがそのまま運び込まれたとのこと。
中和田村(現・和田地域)の歴史とともに歩んできたこの神社は、長らく地域の信仰を集めてきました。現在も、地域の方々の手で維持され、平成の改修によって今日まで守られています。

2022.11.04 しみず撮影

2022.11.04 しみず撮影


自然と神域が交わる場所

お社の前には、翁のような木造の像が置かれています。菅原道真公を模したものでしょうか。
学問の神、そして土地の神として、静かにこの場所を見守っています。
この天満宮が面白いのは、街道からわずか数十メートル足らずの場所にありながら、鳥居をくぐると空気が一変することです。湿った土と湧水、周囲の木々がつくり出す微細な湿度と静けさが、まるでこの場所だけを別の空間にしているかのよう。
境内にはかつての灯籠の部材なども見られ、長い年月の積み重ねが静かに息づいています。

2022.11.04 しみず撮影


人々はなぜこの場所を祈りの場としたのか

街道のすぐそばにありながら、この場所はやはり神域なのだと感じます。
人々が自然の気配を感じ取り、畏れとともにここに神を祀ったのか。あるいは、祀ることでこの場所が特別な空気を帯びるようになったのか。
今となっては、そのどちらが先だったのかは知る由もありません。
けれども、こうして今も中和田の地に天神様は静かに鎮まっています。
祈りと自然、そして時の流れが交わる場所――。それが、この中和田天満宮でした。

2022.11.04 しみず撮影

文・写真:しみずことみ


所在地

【所在地】東京都多摩市和田1025-11
【撮影・記録日】2022年11月4日


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