写真・文:しみずことみ
出会いは、偶然の寄り道
まだ自分の地域が「由木」とさえ知らなかった頃のことです。
多摩市の唐木田図書館へ向かう自転車の道すがら、ふと目に留まったのが、この笠地蔵さまでした。
大きな木の下、草に囲まれた素朴なお姿。
静かな佇まいの中に、長い年月を感じさせる不思議な存在感がありました。

橋とともにあった記憶
このお地蔵さまは、かつて「長坂橋」のたもとに立っていたといいます。
人と人、地域と地域をつないできた橋。そのそばで、300年以上ものあいだ行き交う人々を見守ってきました。
時代の流れとともに橋は姿を消し、風景もすっかり変わりました。
けれど、このお地蔵さまだけは、今もなおこの場所に残り、昔を知る静かな語り部となっています。

由木と唐木田、かつてのつながりを想う
唐木田は、旧由木村の一部地域と里山や林を共有していたと伝えられています。
もしかしたら、この笠地蔵さまも、由木の人々の暮らしと共にあった存在だったのかもしれません。
地名や行政区分を超えて、人々の暮らしや想いが交わる。そんな時代の面影を、この場所から感じ取ることができます。

今も続く、祈りの時間
訪れた日は、足元に新しい花が手向けられていました。地域の人々によって大切にされ、今もそっと手を合わせる人がいる。この場所は300年前から変わらず、誰かの祈りを受け止まる場として存在し続けているのだと感じました。
ほんの少し足を止めただけの寄り道。けれど、この笠地蔵さまとの出会いは、地域の過去と今をつなぐ小さな扉を開いてくれたように思います。

写真・文:しみずことみ
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